会社に土地を持たせることをおススメしない理由

 不動産賃貸業を営むオーナー地主が、相続税や所得税、住民税の節税対策として、法人を設立する方法があります。

 作った法人に資産を移すことで効果を発揮しますが、土地は移さないほうがよいと感じる理由について触れていきます。

目次

そもそも法人をつくる目的は誰のため

 個人で不動産賃貸業を営んでいると、黒字であれば所得税、住民税、場合によっては事業税がかかってきます。

 住民税と事業税の税率は一定なので、所得の何割、利益の何割が税金になるという構造は、利益が多くなってもかわりません。何割かもっていかれるという感覚です。

 所得税はこれらとは異なり、利益が多ければ多いほど税率が上がっていく構造になっています。

 では、法人の利益に対する税金の構造はというと、段階はありますが、一定の税率から上がることはありません。

 この法人税の一定の税率よりも、所得税の税率のほうが大きくなっている場合、法人を設立し資産を法人へ移すことで、法人税負担と所得税負担の差額分を節税することを目的として、法人を設立するというオーナー地主が多いのではないでしょうか。

 そうすると、法人を作る最初の入り口は、土地を持っている「地主オーナー」のためということになります。

 実際、法人を設立するにあたっては、元々、地主であるオーナーが所有している財産を法人に移動するので、オーナーの了承を得なければ財産を移すことはできませんし、オーナーが自分の節税を考えて始めることなので、「地主オーナー」が軸になって話が進んで行きます。

 また、法人を活用して、地主の相続税対策を実施することも考えられます。

 法人というフィルターを通すことで、地主に集中していたお金を、将来の相続人へ分散させ、将来の納税資金の準備をしたり、土地の相続税評価を下げたりといったことが行えるようになります。

 相続税に関しては、実際、地主が支払うものではないのですが、自分の財産にかかる税金という観点から考えると、やはり「地主オーナー」のためということになります。

法人に移す資産は、建物までがよい

 不動産管理法人を設立して、節税を行う場合、一般的に最も効果があり、使い勝手が良い方法は、アパートやマンションなどの賃貸用不動産の建物を法人所有にすることではないでしょうか。

 元々、地主オーナーが所有していた賃貸用不動産を、法人へ移すことで、家賃収入が法人のものとなり、法人というフィルターを通して、様々、税金対策を行っていく手法になります。

 ここで注意しなければならないことは、法人へ移す資産は、建物までで、土地は法人へ移さず地主所有のままにするということです。

 理由としては大きく2点考えています。

 ひとつめは、法人を設立して税金対策を行うエリアは、首都圏エリアや関西エリアなど大都市圏でこそ効果が大きく発揮されます。

 大都市圏ということは、土地の値段も大きくなりますので、資産を法人へ移す際のコストが大きくなってしまい、法人の資金繰りにあまり良い影響を与えないからです。

 もうひとつが、法人を設立するそもそもの目的から外れてしまうから。

 先に書いたように、法人を誰のために設立するのかというと「地主オーナー」のためという色が濃くなります。

 地主の生前は、毎年の所得税対策。相続発生後にかかってくる相続税対策のため、法人を利用することになります。

 言ってしまえば、地主の世代が次の世代に移ったとき、その法人は、まだ必要なのか、見直しをしていく必要が出てきます。

 相続人全員の仲がよく、裏表も、隠し事もなく、皆で家族経営してやっていこうというご家庭であれば、そのまま法人を運営していくという道もあると思います。

 しかし、そうではない場合や、家族との関係性があまりよくない場合なども考えられます。

 相続が発生した場合、亡くなった地主の財産を相続人の中で、誰がどれをどのように引き継ぐのか話し合いが行われることになります。遺産分割協議というものです。

 この遺産分割協議を行う際、法人が土地を所有していることで、法人の株式が引き継ぐ対象の財産になることがあります。

 この株式の評価が、土地を法人が所有していることで大きくなってしまうことが考えられます。値段の高い土地を所有している法人の株式なので、株価が大きくなってしまうのです。

 しかもこの株式は、第三者に売却することが非常に難しく、家族内でしか通用しない通貨のような存在になるので、相続税の納税資金に充てることも難しくなります。なのに、株式を引き継ぐと相続税はかかる。じゃあ、納税資金はどうやって準備するのと、株価が大きくなることで喜ぶ人は、あまりいません。

 建物のみ所有している状況であれば、土地を所有している状況よりも低い状況にすることができます。また、遺産分割の結果、法人を所有していないほうが、家族全体の税負担を考えた場合、手元に残るお金が毎年多くなる状況も考えられます。

 さらに建物は土地とは異なり、いつか取り壊すものです。古くなったら取り壊して建て替えることが出来ます。取り壊しにより建物の所有者は一度リセットされますので、また、状況に応じた所有者を考えることが可能です。法人名義で建てるのか、個人名義で建てるのか。選択することが出来るようになります。

 反対に、土地には取り壊すという概念はないので、所有者を変更する場合、またお金を出して売買などを行わなければならず、金銭的な負担も大きくなります。

 そんな感じで、法人を使った税金対策を考える上では、土地を法人所有にすることは、おすすめはしません。

設立後もメンテナンスは必要

 法人を設立して、無駄な税金負担を削減していく方法は、個人的には大切な視点と考えています。

 節税のためではなく、無駄な税金の支払いを少なくして、手元に残るお金を増やしてくためにという視点で。

 当初は地主のために設立した法人も、賃料収入の変動や、必要な費用負担額の変動。家族の状況の変化などでメンテナンスは必要です。

 自動車や電化製品と同じで、メンテナンスをせず運営していると、非効率な運営方法になっていることも考えられます。

 毎年の節税効果は得られているのか。相続対策として機能しているのか見ていくべきです。

 地主自身が将来手助けをすることができない将来の相続のことにも絡む話なので、話しづらい点はあるかもしれませんが、残される家族のことを考えればこそ、上手な法人利用をおすすめします。

この記事を書いた人

40歳の税理士 相続や自分で経理をしたい人へのサポートが得意です 東京都杉並区の井の頭線沿線在住 福島県浜通り出身

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