持ち家と預金があると相続申告は必要かも。申告が必要かどうかは、おさえておこう

 相続税の申告と聞くと、「いわゆる資産家だけが対象なのではないか」という印象を持たれる方もいるかもしれません。

 しかし、10年ほど前に行われた税制改正によって、相続税はかからないが、申告は必要というご家庭もありますので注意が必要です。

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相続税の計算方法

 相続税の計算は大きく分けて3つのステップに分かれます。

 最初に、相続財産の総額を把握します。これは、亡くなった方が所有していたすべての財産額の合計です。具体的には、不動産、預貯金、株式、生命保険金などが含まれます(この記事では、税務上特殊な取扱いをする財産はわかりづらくなるので除いています)。また、住宅ローン残高などの債務や、葬式費用は財産総額から差し引きます。

 次に、その財産総額から「基礎控除額」を差し引きます。基礎控除額は「3,000万円 + 法定相続人の人数×600万円」の算式で計算します。これにより、相続税が課されるべき財産の金額が明らかになります。

 そして、課税対象となる財産の金額に対して、適用される税率をかけて税額を算出します。その税額から各種の控除や免除を差し引き、最終的な相続税額を確定させます。

 財産額の計算方法や、債務葬式費用の把握、税額控除は何が使えるのかなどを考えて最終的な相続税を計算していくことが税理士の仕事になります。

 この記事でお伝えしたいことは、財産から債務葬式費用を控除した金額が基礎控除額以下であれば税金はかからないのですが、財産額を出すときに計算の特例を使っている場合は、仮に税金がかからなくても申告は必要になるということです。

財産額を最大80%減額できる小規模宅地等の評価減額

 相続財産である土地の財産額を計算する際、「小規模宅地等の評価減額」という特例を使うことで、土地の財産額を最大80%減額することが出来ます。

 例えば、自宅敷地の場合、減額の要件を満たしていれば330㎡までは80%財産額を減額し、20%分の財産額で税金計算していいよというものです。

 お亡くなりになった方が自宅敷地として使っていた土地について、この特例は適用されますが、代表的な要件は、配偶者がその土地を相続すること、また、同居していた相続人がその土地を相続するなどです。

 財産額が20%分で済むので、絶対に適用すべき特例ですが、この特例の適用条件のひとつに「相続税の申告書を提出期限内に提出すること」があります。これを「当初申告要件」といいます。

 なので、この特例を使い財産総額が基礎控除額以下になる。結果、相続税がかからないという場合は、相続税はかからないが、相続税の申告は必要という状況になるということです。

 「相続税がかからないんだから申告も必要ないでしょ」と勘違いされている人も多いのですが、小規模宅地等の評価減額を使う場合には注意が必要になります。

 また、「期限後でも申告書を提出すれば特例を受けられるんでしょ」と思われるかもしれませんが、「当初申告」が要件なので、特殊事情がない限り、適用は認められていません。

ネットで使える相続税シミュレーションではわからないこと

 インターネットでは、相続税の計算を簡単にできるプログラムが多く提供されています。

 大まかな財産額を入力、家族の状況を入力すると、大体の相続税額が計算されるようなプログラムです。

 簡単に計算をできる点はメリットですが、盲点になっていることが何点かあります。

 代表的なものは、先ほど紹介した小規模宅地等の評価減額など、特例を使う場合には期限内に申告書の提出が必要という要件があることが、使用者にしっかり伝わっているか確認できないということです。

 計算結果のどこかに触れられていればいいのですが、表示されていなかったり、表示されていてもわかりずらかったりすることがあります。

 デジタルツールをおすすめする私ですが、「何かを説明して理解してもらう」ことについては、対面やオンライン会議など、相手の表情を見ながら、大切なこと(今回の記事であれば申告が必要ということ)が相手にちゃんと伝わっているのか確認しながら進めていきたい派です。

 申告さえすれば適用を受けられたのに、申告しなかったことで、後々、税務署から連絡を受けて、余計な税金支払うことになるのは、もったいないですし。

 もったいないことにならないように、簡易的に相続税をしてみる場合でも、税理士の説明ありの相続税シミュレーションを行うことをおすすめします。この部分だけは、デジタル好きの私もアナログにこだわっています。

この記事を書いた人

40歳の税理士 相続や自分で経理をしたい人へのサポートが得意です 東京都杉並区の井の頭線沿線在住 福島県浜通り出身

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