相続財産として計上する財産として、絶対に外せない現金預貯金。
申告書に相続財産として記載する金額は、どのように把握していくべきでしょうか。
相続開始時点の残高証明書
相続財産の金額として、まず考えなければならない金額は、被相続人(お亡くなりになった方)が亡くなった時点で付き合いのあった金融機関から発行される残高証明書に記載されている金額です。
相続人が手続きをすることで、相続開始日時点で、その金融機関に存在する被相続人の口座残高が記載されている証明書を、金融機関から発行してもらうことが出来ます。
普通預金、定期預金、貯蓄預金など、預金の種類に関わらず、すべての口座の残高を記載してもらいましょう。
このとき注意しなければいけないことは、預けている預金について「既経過利息」の金額も記載してもらうことです。
「既経過利息」とは、もし仮に相続開始日に利息が付くとしたら、どのくらいの利息がつくのか。その金額を金融機関に計算してもらうことで把握することができます。
この「既経過利息」も相続財産になります。
低金利時代なので、預けている金額がよほど多額でない限り、利息の金額は微々たるものです。
ですので、残高証明書を発行してもらう際には必ず「既経過利息の金額記載してください」と、こちらからお願いする必要があります。
相続税の申告対応に慣れている金融機関の担当者であれば、残高証明書に既経過利息を何も言わずとも記載してくれますが、慣れていない担当者だと、残高の記載のみで既経過利息の記載がされていないケースもあります。
この既経過利息。定期預金によく付属で登場するのですが、税務調査の際、既経過利息が計上されていないと、微々たる金額の場合であっても、調査官はそこを指摘してきます。
また、相続税の申告を税務署がチェックする際に、既経過利息の計上がないと「既経過利息の計上が漏れているということは、他にも財産の計上漏れがあるのではないか」という、いらぬ詮索を誘発する材料になる可能性がありますので、微々たる金額かもしれませんが、しっかりと記載することが大切です。
口座履歴の確認をして相続財産の計上漏れを防ぐ
相続開始時点で取引のある金融機関は残高証明書で対応できますが、昔取引があった金融機関でも、ある時点で取引を終了し、口座も解約しているかもしれません。
残高はありませんので、預貯金残高として相続財産に計上する金額はありませんが、その口座でどのような取引が行われていたのか確認することを、私はおすすめしています。
相続開始時点で取引のあった金融機関の口座履歴も同様ですが、残高証明書の記載額は、あくまで相続開始時点の残高。
それまでの口座履歴を確認することでわかってくることが多くあります。
入金される配当金があれば、証券会社に預けられている株式があることがわかります。
多額の出金があり、同時期に被相続人名義の他の口座に入金がなければ、贈与があったのか、はたまた手元に現金として持っている金額があるのではなどと考えることができます。
もし、ローンの返済があれば、借入金が残っているのではと考えることができます。
紹介したのは履歴から考えられることの一部ですが、口座履歴をしっかり確認することで、お金の流れをしっかりと把握し、相続財産の計上漏れを防止する材料になります。
手間かもしれませんが、入手できる限りの過去の履歴を取引継続中、取引終了に関わらず確認しておくことが必要です。
ちなみに、税務署は金融機関に対して、口座履歴の閲覧をさせてもらうことができる権限を持っています。
相続税の税務調査の際も、相続人に対して通帳などでの口座履歴の提示を求めてきます。
税務署も同じように口座の履歴から、なにか財産の計上漏れがないか確認を必ずしていますので、税務調査を意識して先手先手で対応しておくことが大切です。
取引のある金融機関をどのように見つけるか
相続税の申告書を作成するときには、被相続人は、もうこの世にいません。
被相続人が、どのような金融機関と取引をしていたのか、本人に聞くことはもちろんできません。
相続人が取引のあった金融機関を探し当てるためには、正直「探す」しかないと思っています。
住んでいた家の中を探して、通帳を見つける。郵送物やカレンダー、名刺などから、関係性のあった金融機関を見つける。所有していたパソコンやスマホにインストールされているアプリから取引先を見つけるなどです。
有償になりますが、口座を探すことを弁護士に頼む場合でも、弁護士は探します。
残された家族の苦労を少しでも緩和するためには、生前に自分の財産状況を、家族に伝えておくことをおすすめします。
自分の財産状況を、家族と共有しておく。
インターネットを利用して取引をしているのであれば、ログインできる情報を第三者に知られないように注意しながらも、家族と共有しておく。
可能であれば、将来発生するであろう相続税の概算値だけでも、家族と共有しておく。
生前に、家族に自分の財産のことを知ってもらうことは、非常に勇気のいることかもしれません。
それでも、自分が手を差し伸べることができない時のことを、自分が手を差し伸べることができる時にしておくことは、家族のために非常に大切なことだと、この仕事をしていて感じています。