相続税の申告書を作成、税金を計算していくときに、気を付けなければならない名義預金と呼ばれる預貯金。
相続財産の計上漏れにならないように注意が必要です。
そもそも相続財産とは
相続税の申告書に記載する相続財産は、お亡くなりになった方が所有者である財産がメインです。
一部「みなし財産」と呼ばれるものなどイレギュラーはありますが、今回は、所有者がお亡くなりになった方である財産が相続財産として考えていきます。
相続財産の基本的な考え方は、その財産が形成される過程で、誰がその購入資金を出しているのか。誰が稼いだお金で、その財産が作られたのかという考え方です。
太郎さんという方がいて、太郎さんが稼いだお金が、太郎さん名義の口座に預金として残っている場合、何の疑いもなく、その預金残高は太郎さんの相続財産ということはわかると思います。
相続人の方々も、相続税申告を頼んでいる税理士に「太郎さんの相続財産がわかる資料を、ご提示いただけますか」と言われたら、太郎さん名義の財産に関する資料を税理士に提示することでしょう。
現金、預貯金、有価証券、家や土地などの不動産など、太郎さんの名義であれば、相続人の方も、「これは太郎さんの財産だ」という認識でいるはずです。
ここまでは、何の疑いもなく相続税申告の準備は進んで行くことでしょう。
くせ者「名義預金」
次の段階で一歩踏み込んだ税理士の質問から、くせ者の「名義預金」が登場してくることがあります。相続税の税務調査でも、論点になることが多い財産になります。
税理士は相続人の方々に、このような質問をします。「太郎さんの以外の方の名義ではあるものの、太郎さんのお金で形成されている財産はありませんか」と。
相続人の方々は、はじめ「?」となることが多いのではないでしょうか。普段、そういう目で、財産を見ることはありませんから。
誤解のないように書きますが、税理士がこのような質問を相続人の方々に投げかけることは、必要なことだと考えています。
大切なのは、その言葉が意味することを、しっかりとかみ砕いて説明し、理解していただくこと。
税理士が質問して知りたいことは、名義預金とよばれる財産。預金に限らず名義財産は何種類かありますが、今回は預金に絞って書いていきます。
例えば、太郎さんのお金あります。そのお金は太郎さんが稼いだか、または相続して引き継いだお金かなどお金の出どころは多々あるものの、太郎さんが所有者であるお金とします。
太郎さんはそのお金を、奥さんである花子さん名義の口座を作り、その花子さん名義の口座に入金したとします。この口座の通帳や印鑑は太郎さんが管理しており、花子さんはノータッチ。太郎さんの相続時、花子さん名義のこの口座に預金残高があったとします。これが「名義預金」として太郎さんの相続財産になります。
「えっ⁈名義が花子さんなんだから、太郎さんの相続財産にはならないでしょ⁈」と思われるかもしれませんが、ここで思い出していただきたいことは、相続財産の基本的な考え方は、その財産が形成される過程で、誰がその購入資金を出しているのか。誰が稼いだお金で、その財産が作られたのかです。
太郎さんの相続税の計算をする上で、太郎さんの相続財産として考えなければならない財産は、名義云々ではなく、その財産が太郎さんのお金で形成されているか否かです。
もちろん、お金を贈与したのであれば、太郎さんの相続財産として考えなくてもよいでしょう。贈与の場合は、贈与の事実をしっかり説明できる根拠づくりが必要です。また、贈与時期によっては相続税の計算上、相続財産に準ずる取り扱いをしなければなりませんが。
ここで重要なことは、口座の名義だけが花子さんということだけをもって、太郎さんの相続財産では無いということではないということです。
もっと突っ込んだたとえ話をすると、会社員の次郎さんと、その妻である専業主婦の鈴子さんがいたとします。
次郎さんに相続が発生したとき、鈴子さん名義の口座にお金があったとします。
鈴子さんは専業主婦で、その口座に残っていたお金は、毎月生活費として次郎さんからもらっていたお金を鈴子さんが上手にやりくりし、残ったお金をためていたものだとします。いわゆるへそくりです。
一見すると鈴子さんの財産で問題ないように思えますが、元々のお金の出どころは次郎さんですので、その財産は次郎さんの財産ということになります。贈与と言い張れなくもないですが、かなりリスクがあるかなと。
名義預金と言われないために、生前に対策を
このように「名義預金」は、相続税の計算をする際「くせ者」になります。
それゆえ、相続人の方と税理士の間で、しっかりと意思疎通を図ることが必要な財産になります。
名義預金と言われないようにするには、名義人になっている方の財産であるということを説明できる状況にしておくことが大切です。そして「説明できる状況」を作るためには、相続が起こる前である生前に準備をすることが重要になってきます。
贈与するのであれば、だれが見ても「これは贈与だよね」と納得する状況をつくることが大切です。贈与税の負担を考えた上で、お金の移動は預貯金口座間で移動するとか、贈与契約書をしっかり残す。もらった人が自由にお金を使えるように、通帳や印鑑、キャッシュカードの管理は、もらった人が管理するなどの状況を作っておく必要があります。
また、名義預金が既にあるのであれば、相続税を計算する際に使える生命保険金の非課税枠が適用されるような生命保険契約を、相続発生前に組む方法なども考えられます。
いずれにせよ、生前に対策をすることが大切なので、まずは将来の話をご家族でしてみてはいかがでしょうか。